たつのの有名人&達人

インタビュートンボの達人 三木安貞さん(第1回)

<はじめに>
今回は、秋という季節とたつの(龍野)にふさわしい“とんぼ(蜻蛉;トンボ)”の達人に登場して頂きました。御津町の三木安貞さん(75歳)です。三木さんは長年トンボの採集と研究を趣味とされ、日本蜻蛉学会会員であり、社団法人「トンボと自然を考える会」にも所属されています。また、平成14年にはたつの市に198種の標本を寄贈されました。
お話をお伺いして、普段我々がしょっちゅう目にしているトンボですが、意外な習性や生態があることも教えて頂きました。最近、全国的に赤とんぼが減ったというニュースもあり、今後、赤とんぼの“本家”(?)であるたつの(龍野町)が頑張らないといけないなぁと感じた次第です。(取材場所;たつの市青少年館こどもサイエンス広場)

<日本のほとんどのトンボを収集!>

写真:三木さん

司会;一番最初にトンボに興味を持たれたのはどういうことからですか?

三木;昭和46年に家の近くで今まで見たことが無いようなトンボを見かけたんです。
それで、その名前が分からないので図鑑で調べましたが分かりませんでした。その後姫路昆虫同好会があると聞いて、そこへ行って教えてもらいました。
身体が金属色で綺麗なトンボでした。名前はタカネトンボと言うのです。
それからトンボを集めてみようと思ったのです。

写真:トンボの標本

写真:トンボ図鑑

司会;色んなところへ行かれたそうですね。

三木;そうですね。一応初めはこの近辺のものを採取していましたが、だんだん欲が出てきました。人から貰っても、やはりどういうところに生息しているか、生息環境も見たいですし、現地へ行かないと採れませんのでね。ですから北は北海道の北見から、南は南大東島や台湾の手前の与那国まで行きましたよ。

司会;えっー。台湾のところまでですか!すごいですね。それで、今まで集められた数はどれぐらいですか?

三木;ええ、日本では亜種を含めて214種生息しており、その内の198種類集めました。

司会;これはスゴイ!日本のトンボの殆んどと言っても過言ではないですね。実際に現地に足を運んで直接収集しないと集められませんから、大変だったでしょう。

<トンボは南の国からやってくる?>

司会;最近知ったのですが、トンボは南の国から海を渡ってきてさらに北へ移動するそうですね。そういうことですと、いろんな場所に行かずに、一箇所にいて渡ってきたものを待ち構えていて捕まえることが出来るのではないかと思うのですが・・・。

三木;そういうタイプは少数ですね。

司会;海を渡るのは少数なんですか?

三木;一番有名なのは”ウスバキトンボ”です。よく見かける黄色いトンボです。

司会;どこから来るんですか?

三木;沖縄とか南の島からです。いわゆる定点観測船でよく観測されています。ですから高知より南の方で生息したものが日本に飛んできて卵を産みます。その卵が1カ月ぐらいでトンボになります。割と早熟なんですよ。

司会;台湾や沖縄ぐらいから一旦四国へ飛んでくるんですか?

三木;いいえ、ずーっとこちら(本州)の方まで気流に乗って来ますよ。

司会;仮に日本に来て卵を産みますと、産む場所はすでに寒いのではないですか?

三木;いやいや、そうではありません。飛んでくるのは6月ぐらいですから寒くはありません。それが1カ月で成虫になり、さらにそれが卵を産みます。だから飛んできてから2回ぐらい世代が増えます。

司会;そのように大きくなったトンボは南の方へ戻るんですか?

三木;向こうへはよう戻りません。

司会;そうすると、元の場所(南の島)のトンボは北へ出て行くばかりで、いわゆる”輸出”だけだったら、元の場所のトンボは減ってしまわないのですか?

三木;向こうにもたくさんいますから。

司会;そうですか!全部が北へ行くのではないんですね。

三木;要は、一部が気流に乗って飛んでくるのです。

司会;なるほどね。気流に乗らないと自力で飛ぶのは大変ですよね。自力だとプロペラ機でもないですからとてつもなく時間と体力が要りますよね。

三木;そうですね。ですから定点観測船では、力尽きて船の上に落ちて死んでいるものも沢山見られるようです。

写真:三木さん

司会;ほかのトンボはどうなんですか?

三木;タイリクアキアカネなどは、ロシアから石川県など日本海側の地域に飛んできます。一般に言うアキアカネはこの辺の田んぼで6月ごろに羽化します。羽化したら少し水辺から離れて一週間ぐらい体力をつけてから山の上へ上がっていきます。

司会;なぜ山の上に行くんでしょうか?

三木;なぜ山の上へ行くかと言うと、今までは下の気温が暑いから避暑に行くと考えられていましたが、最近はトンボが活動した時に体温が10度ないし15度上がるということが分かりまして、平地の30度もある所では到底生息出来ないので、気温が20度〜25度ぐらいの場所を求めて移動するということが段々分かってきました。

司会;10度も上がってしまうんですか!

三木;秋になって山の上が涼しくなって、下も適温になってくると平地に下りてくる訳です。そしてその頃に繁殖活動をするようになります。

<産卵〜ヤゴ〜羽化>

司会;繁殖活動の具体的な時期は?

三木;やはり稲刈り時分ですね。交尾は、初めにオスがメスを捕らえて、次にオスが自分の腹部にある副性器に精子を移殖する訳です。それからメスが交尾するのです。その後すぐに産卵します。種類によって連結で産卵したり、単独で産卵したりします。場所もいろいろあります。基本的には水のあるところですね。池に生えている草の根元とか。オニヤンマなどは山の渓流の石の下とかに産みつけます。産卵の時は垂直になって勇壮ですよ。

司会;卵を産むのは何月ぐらいですか?

三木;トンボの種類によって違いますが、オニヤンマは早いですがアキアカネなら今(10月末〜11月)ぐらいですね。今年なんかはあまりまだ見ていませんので、遅いと思います。

司会;アキアカネは、どんなところに卵を産みつけますか?

三木;泥の中とか、水草に産みつけます。卵は粘着性があって水草の茎とかにくっついています。

司会;その後卵はどうなっているのですか?

三木;田んぼの泥の中にじっとしていて、田植えの時に水を張りますが、水が入り温度が上がると孵化します。ちょうど自然の流れに合っているんですよ。水がたくさんある所では、ある程度気温が上がるまでは水の中にあります。

司会;トンボの成虫は空気中しか生きられませんね。でもヤゴは水中で生きているのですか?

三木;そうです。

司会;いつごろまで水中にいるのですか?

三木;卵からヤゴになるのが4月ぐらいで、6月ぐらいにはヤゴが羽化してトンボになります。ヤゴの時に肉食になります。

写真:図鑑を見せながら話している三木さん

司会;肉食に?ということは、小さい虫などを食べているんですね?

三木;ええ、そうです。

司会;トンボの口は鋭い口をしていますもんね。噛まれたら痛そうな・・・。
ヤゴからトンボになるのはすぐなるんですか?

三木;やはり羽化する時には下の足の部分が固まるのに時間がかかるので小休止したりして、お尻の部分を脱いでいきます。そして羽根が固まると藪の中へ飛んで行って、全体がある程度固まるまで隠れています。

司会;なるほど。

三木;羽化する時が飛べないので一番狙われやすいのです。ですから夜明けとかに林や藪の中へ移動するのです。

司会;それは本能的なものですね?犬など動物のように”親”はいない訳ですからね。
それから習性とかが変ったトンボはありますか?

三木;ムカシトンボは、変った止まり方をします。トンボは普通羽化したら羽根は一生開いたままですが、ムカシトンボだけは、止まる時にぶら下がって止まり、その時には羽根を閉じています。
いわゆる”進化していない”のです。よく見てもらったら、頭の辺りに毛がズーッと生えています。また、ムカシトンボは何回も脱皮を繰り返し、羽化するまで5〜7年と、かなり長い年月がかかります。

<“赤とんぼ”って>

写真:アキアカネの標本

司会;いわゆる”赤とんぼ”というのはどの種類を言うのですか?

三木;よく言われている”赤とんぼ”というのは、赤い色をしているトンボの総称ですが、アカネ科というのがあって17種あります。代表的なのがよく見るアキアカネ、或いはナツアカネです。
ナツアカネは身体全体が赤いですが、アキアカネは身体の部分はそんなに赤くはありません。

(ここで標本を見せて頂く。アキアカネ等々。)
たくさんのトンボの標本がガラスの戸棚に何段にも収納されていました。

写真:棚から標本を取り出す三木さん

残念ながらアキアカネの標本は”出張中”ということで見ることが出来ませんでしたが、その後撮影したものが右上の写真です。

エピソードをお聞かせ下さい

司会;いろんな場所に行かれて、いろんなことがあったと思いますが、何かエピソードはありましたか?

三木;そうですね。沖縄に行って、何も考えずに長靴を履いて川へ川トンボを採りに行っていたんです。
そうしたら帰りに島民の方に出会ったら、”どこに行っていたんですか?”と尋ねられ、”演習林の方へ入っていたんです。”と答えたら、”気をつけて下さいよ!そこはハブ警報が出ているんですよ。”と言われて大変驚きました。

司会;さぞかし驚かれたでしょう。噛まれていたら大変でしたね。

三木;それから困ったのは、北海道の釧路湿原に行った時です。湿原ですからここ(足の付け根)まである長い長靴を履いて湿地に入りました。トンボを追っかけて下を見ずに一生懸命歩いていたら、突然、”ズボッ”と深みに足を取られてしまいました。(笑)抜けなくてね。

司会;まったくの湿地ですよね。

三木;片足がはまってしまったので、逆の片方の足で構えて力を入れて抜こうとしますが、今度はその足の方が沈みだしてねぇ。

司会;アリ地獄みたいですね。

三木;そうです。(笑)
それから石垣島では、於茂登山の麓で子連れのイノシシに出くわしました。レンタルバイクで走っていたら、前にイノシシが現れたのであわてて降りて単車を立てて、”早く行ってくれないかなぁ”と念じていました。ジッとにらみ合いのようになりました。

司会;向って来られたら恐いですもんね。

三木;特に大きかったですし。それ以外でもいろんな目に合いましたよ。(笑)

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